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先人が語る教育の智恵と本質②「利他の心」

休日にネットで、京セラ名誉会長の稲盛和夫さんのオフィシャルサイトを見ていると、最近テレビ番組に出演された動画が掲載されていた。

 

(これは珍しい)

 

と思わず時間を忘れて鑑賞した。

稲盛さんは『京セラ』の創業者である。それだけでなく『第二電電(現在のKDDI)』も創業した。破たんした『JAL』の経営再建を政府から依頼された際には、無給を条件に会長を引き受けた。そしてわずか数年で業績をV字回復させた。その経営手腕は伝説になっている程の名経営者である。

 

番組の最後に進行役がこんな質問をした。

 

「稲盛さんにとって『リーダー』に必要なことは何ですか?」

 

稲盛さんは何と答えるのだろうと、私は構えた。リーダーに必要な要件なら、私は思いつくだけでもいくつも挙げることができる。「先見性」「決断力」「大局観」「情熱」「人心掌握力」「飽くなき挑戦」…

 

ところが稲盛さんは、意外な答えを言った。

 

「才覚とか能力とかいると思いますけれども、リーダーで一番大事なのは、思いやりの心を持っているかどうかだと思います」

 

「それを私は一言で『利他の心』と言っている。『利他の心』を持っているかどうかが必須条件だと思っています」

 

 

この答えに、私は驚いた。

 

数年前私は、胸椎の外科手術をしたことがある。部位が部位であったのでどの病院で手術をするべきか思いあぐね、大学附属病院で心臓外科医をしている教え子がいるのを思い出して彼に相談した。

そして彼の勧めで、その大学の附属病院で手術をすることになった。

 

手術が終わった次の日曜日に、彼はわざわざ病室に見舞いに来てくれた。自宅の近くにある人気店だという洋菓子店の菓子折りを手に提げていた。

「忙しいのにいろいろと気を遣ってくれてありがとう」と私は心から感謝の気持ちを伝えた。

「いえいえ。手術が終わった夜、執刀医から無事終わったと連絡があり安心していました」と言って、彼は微笑んだ。

歓談の最中は、次々と小学生時代の思い出話がでてきて大いに盛り上がった。彼は小学生の頃、もちろん学業優秀な子どもではあったが、それよりも感受性の豊かさが際立っていた。

 

ふと彼は穏やかなそれでいて強い眼差しで、こう言った。

 

「先生。僕は○○小学校に通ったことを本当によかったと思っています」

 

「僕の同僚や後輩は圧倒的に私学の学校出身者が多いのです。なかには幼稚園から一貫校の人もいるくらいです。その人たちの学校時代の思い出を聞いていると、随分僕とは違うなあと感じることが少なくありません」

 

「僕は小学生時代にいろいろな経験をしました。いろいろな同級生がいて、時には困った出来事もあったけれど、そういうことが子どもにとっては大事なのだと思うのです」

 

私は彼のこの言葉を聞いて感動した。

彼は小学生時代の出来事を本当によく覚えていた。そしてその経験が、今の彼の人柄を形成している土台にあるのだと、私には実感できたのである。

 

稲盛さんは、リーダーの要件は「利他の心」を持つことだと言う。

では、「教育の要諦」とは何だろうと、私は自問した。

それは「利他の心」を教えることだと、私は胸で答えながら、彼の顔を思い出していた。

(浩)

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