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明日へ届ける手紙⑨「ワールド・カフェの夜」(上)

 

 ■ 校区協議会主催の「地区懇談会」

 

 夏休みの土曜日の夜、地元の自治会から参加してほしいと依頼があり、近くの公民館で開かれた「地区懇談会」に参加した。5年振りの出席だった。

 

 この懇談会は、青少年健全育成校区協議会、校区公民館や小学校PTAなどが共催しており、年に一度開催される80名規模の「地区懇談会」である。小学校区の地域住民で、自治会、公民館、PTA、民生児童委員、子どもクラブなどの関係者が集う。だから参加者は年齢も職業もさまざまだ。共通するのは、地域住民であり地域の子育てに今も関わっているという点だ。

 

 開催案内文書が届いたときに私は、注目したことがあった。それは懇談会の内容だった。この懇談会を現在のような形式に変更した当時の考え方が、今も変わらず継承されていたからだ。

 振り返れば8年前のことになる。

 

■ 「ミニ懇談会」の限界

 

 8年前、私がこの会の主催者の役割を担ったとき、「地区懇談会」は自治会単位に校区を小さく分割して「ミニ懇談会」として開催されていた。この懇談会では毎回終了後に参加者にアンケートを取っており、その意見を読んでみると課題が浮かび上がってきた。主催者側と参加者側に感覚のすれ違いがみられたのである。

 

 主催者側は「同一自治会のメンバーで話し合えば、話題が共通になるだろう」「少人数で懇談すれば発言がしやすいだろう」と考えて企画しているのに、参加者側は「毎年同じ人が出席していて、ほとんど意見が出ない」「人が集まらない」「同じ地区の子どもの様子はわかるがほかの地区の子どもの様子がつかめない」「発言が感想で終わってしまい、改善策や解決策が見つからない」などとアンケートに答えており、懇談会の現状を変えられないかという意向がうかがえた。

 

 そんな状況を改善しようと企画会議で私が、「ミニ懇談会をまとめて一回開催にし、100名規模の懇談会を開いてはどうか」と提案したとき、周りの者は何を言い出すのやらと呆れた顔をしていた。

 「著名人を呼んで講演会でも開くのですか?」

 「いや、懇談会をします」

 「どうやって100人で懇談会をするのですか?そもそもどうやって100人も集めるのですか?現状は一会場に参加者が10名いれば盛会で、ある会場では参加者よりも学校の教職員のほうが多かったこともあるのですよ!」

 「校区協議会に入っている団体に人数を割り振って動員をかけるのです。そして、事前に参加者名簿を出してもらいます」

 「そんな動員をかけたら、各団体からクレームが殺到しますよ。日ごろから行政主導の行事や集会は動員が多くて困っているというのが実態なのですから」

 話を聞いていた出席者の多くがそれは無茶だという顔をしていた。

(それでも開催するなら、どうなっても知りませんよ。責任は校長が取ってくださいよ)とでも言いたげな顔だった。

 

 「それでいったい何をするのですか?」

 「ワールド・カフェをするのです」

 

■ 「ワールド・カフェ」での会話

 

 開会10分前には公民館に着いた。受付で名札をつけペットボトルのお茶をもらって会場に入ると、すでにビデオ上映が始まっていた。5年生のキャンプと6年生の修学旅行の様子が紹介されていた。会場にはビデオから流れる子どもたちの歓声が響いていた。

 

 会場はテーブルを囲んで4人のグループ席になっていて、20組のグループがセットされていた。それぞれ机上には白色の模造紙が敷かれ8色マーカーと飾り花とキャンデーなどのお菓子が用意されていた。私は指定されたグループの席に座った。あとの3名はもう座っていてビデオを観ていた。見渡すと参加者席は8割方が埋まっていた。ビデオ上映を観るために早くから来たのだろう。

 

 かつての企画会議で「開会までの30分間、ビデオ上映をしてください」と私が言うと、それはなぜかと質問があった。

「行政が主催する会議はほとんどすべて、会場に入ると静まり返っていて息が詰まる雰囲気になります。もっとリラックスして楽しい気持ちになってもらうためです」「それに、事前にビデオ上映があると遅刻者も減るはずです」

 

 やがてビデオ上映が終わった。定刻ピッタリに、地区懇談会は始まった。主催者のあいさつがあり、次に学校から、各学年で開催している地域連携事業についてPCプレゼンテーションを使った報告があった。

 

 続いて、ファシリテーターが登壇した。

「皆さん、こんばんは。これから『ワールド・カフェ』を始めます。今回のテーマは、『地域で子どもを守る』です。初めて参加された方もいらっしゃいますので、簡単に『ワールド・カフェ』の説明をします」

 

 いよいよ「ワールド・カフェ」の始まりだ。(続く)

(浩)

 

※ 本稿は実際にあった出来事を素材にしたフィクションです。

※ 「ワールド・カフェ」の詳細は、下記の書籍を参照ください。

『ワールド・カフェ~カフェ的会話が未来を創る~』アニータ ブラウン / デイビッド アイザックス / ワールド・カフェ・コミュニティ著 香取一昭 / 川口大輔 (翻訳)、明文図書、2007.9

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