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明日へ届ける手紙⑥「子どもの読解力の行方」(上)

 

 ■ ある教育フォーラムで

 

 2018年11月に、大阪市内の大手予備校で開催された教育フォーラムに参加した。このフォーラムは直接、講師が登壇するのではなく、東京の会場から配信される映像を大画面のモニターで受信するサテライト講座だった。東京を主会場に、札幌、新潟、名古屋、大阪、福岡の全国6会場を結んで開催されたのである。

 

 私がこのフォーラムに関心をもち参加したのは、内容が「リーディングスキル(読解力)」に関するものだったからだ。主催者によればこの「リーディングスキル」とは、「教科書や新聞、マニュアルや契約書などのドキュメントの意味および意図を、どれほど迅速かつ正確に読み取ることができるかという能力」だと説明されているから、「基礎的読解力」といったほうがより正確かもしれない。

 つまりここでいう「読解力」とは、入学試験で問われるような高度な論説文や文学作品の読解ではなく、もっと平易な国語科以外の教科書に載っている文章を読み取る力を指している。そしてこのフォーラムは、中高生の読解力を独自のテストで測定した結果を考察したものだった。

 

 最近の教育現場には「中高生で教科書が読めない学生が増えている」という意見がある。この見解は調査研究の結果に基づくものではないが、教育現場の経験知として一定の支持がある。「教科書が読めない」とは、まさに「教科書が正しく音読できない」ことから「教科書に書かれている内容が正確に理解できない」レベルまでを指している。かつて私は同僚から、小学校中学年の子が「ファーブルは、とりわけ虫がすきでした」という文を読んで「先生。とりわけ虫ってどんな虫ですか?」と質問したという話を聞いたことがある。中高生にもその類の誤読が増えているのだろうか。

 

 このフォーラムで読解力を測定するために提起されたテストとは、国立情報学研究所 社会共有知研究センターが考案した「リーディングスキルテスト(RST)」だった。

 

 ■ リーディングスキルテスト(RST)

 

 上述の社会共有知研究センターではこれまで、自然言語処理研究者によってAI(人工知能)が文章を論理的に読むためのベンチマークを作り、AIの性能を測っていた。そのベンチマークを活用して、今度は人間の読解力を測定するRSTを開発したというのだ。

 

 私はこれまで、AIが日本語を理解するプロセスを知らなかった。PCで翻訳ソフトを使うときに、AIは日本語の文章をどのような構造で理解し他言語に移し替えているのか理解できなかった。AIが実用的な文章をほぼ完璧に翻訳するのに驚くとともに、その実用文のニュアンスを少し変えるだけでとんでもない誤訳をするのが不思議でならなかった。しかし、このRSTのベンチマークを知ることで、私にもAIの認識方法が少しはわかってきた。そして子どもたちの読解力を育成するのに、なにが大事でどのような方法が必要なのかを考えさせられたのだった。

 

 RSTのベンチマークの基本は次のようなものである。(実際には11項目ある)

1. 文節に正しく区切る。(例:私は学校に行く。→私は/学校に/行く。)

2. 係り受けの構造を正しく認識する。(例:美しい水車小屋の乙女。→美しいのは「乙女」である)

3. 述語項構造や接続詞を正しく解析する。(「誰が」「何を」「どうした」のような構造を正しく認識する)

4. 照応関係を正しく認識する。(例:私はハンカチを落とした。それを彼は拾った。→「それ」は「ハンカチ」である)

 

 2年少し前私は、ガッコムのコラムでオックスフォード大学のオズボーン博士が書いた論文『未来の雇用』について触れたことがある。(下注参照)その内容は、今後20年間で現在あるアメリカの職業の50%以上はコンピュータに代替される可能性があるというものだった。

 RSTの考案者である新井紀子さん(国立情報学研究所教授、一般社団法人教育のための科学研究所所長)は、この説を一歩進めて将来どのような職業が人間のする仕事として残りそうかを考察し「仕事がマニュアル化されやすいものがAIによって代替されやすく、コミュニケーション能力や理解力を求められる仕事が残りそう」だと述べている。つまり、コミュニケーション力や読解力などがAIに代替されにくい能力だといっている。(続く)

(浩)

 

※ コラム『きっと役立つ‼若い夫婦のための教育書⑤』2016年9月26日

※ 本稿は、下記の書籍も参考にしている。

『AI vs.  教科書が読めない子どもたち』新井紀子 著、東洋経済新報社、2018

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