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明日へ届ける手紙⑱「ウィズコロナ時代の教育」(下)

 

■ 学校での現実的なICT活用

 

 前回、「デジタル教科書を活用した授業へのシフト」が最優先だと述べた。ところで、教員にICTの活用を勧めると、IT機器の設定や操作に習熟していない教員やICT活用に懐疑的な教員から必ず出てくるのが「アナログでもICTより効果的な指導法がある」という意見だ。教科や単元内容によって確かにそれも事実で、なにもすべてを「デジタル教科書」あるいはデジタル教材で授業をする必要はない。しかし今後、教員には可能なかぎり日常的に「デジタル教科書」を用いるという基本姿勢が必要だと、私は思う。それは、生徒にとって、次代の最重要課題である地球規模の環境問題や国内外の社会問題を探究する過程で、ICTを活用しオープンデータを基にした情報処理や情報活用が必要不可欠になるからだ。情報処理能力や情報活用能力をより高めるために、教育でのICT活用は「時代の要請に応える責務」だといえるだろう。

 

 ただし、「デジタル教科書」を活用した学習をすれば子どもの学力が向上すると短絡的に考えるのも楽観的な考え方だろう。今、私が「デジタル教科書」の活用をことさら強調しているのは、現時点で、学校あるいは教員の「デジタル化」への準備不足の課題が大きいからである。一方、学習者である児童生徒が学習の「デジタル化」によってどのような学力向上が図れるか、あるいはどのような資質・能力を育成できるかは、未知の部分が多い。

 

 2020年12月22日、文科省の有識者会議である「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」は、デジタル教科書の使用時間の基準を撤廃する案を了承した。これを受けて、読売新聞社が全国74市区自治体に行ったアンケート調査によると、望ましい教科書の使用法は62市区が「紙とデジタルの併用」と回答した。また、デジタル教科書に不安や懸念が「ある」「少しある」と回答したのは69市区で、その理由として、児童生徒の視力低下など健康面への影響、通信環境の確保や教員のICT指導力などを挙げている。また、文科省が進める初等中等教育における「デジタル教科書」の使用には、児童生徒の「読解力」や「論理的思考力」の育成について懸念を示す学者の意見や識者の指摘があり、私も同感する部分が多い。

 

 たとえば、小学校教育で求められる教科書を精読して自分なりにノートにまとめる力は、紙の教科書や紙のノートでこそ効果的に培われる能力だと言っていい。一方、疑問点を多様な方法で調べて友だちに説明する場面などではデジタル活用の利点は大きい。今後、「デジタル教科書」の効果的な活用法を確立するには、「教え方」のプロである数多くの教員による授業実践や研究報告による検証が必要である。

 

■ 児童生徒によるICT活用

 

 児童生徒の立場から考えると、ノートPCやタブレット端末などによるデジタル学習では、どのような活用が効果的だろうか。私はまず「AIドリル」が教科を問わず効果的だと考えている。これまでにもプリント冊子で習熟度別に作成されている学習ドリルがあるが、「AIドリル」は学習者の習熟レベルに応じて臨機応変に問題を対応させ出題したり、詳しく問題の解説を行ったりできる点が優れている。また、学習スピードや復習レベルなど他人の目を気にすることなく理解できるまでじっくり取り組める利点もある。

 

 次に、「発表支援アプリ」を活用し、個人やグループの考えを図式化したりアニメ化したりしてプレゼンする学習も効果的だろう。これは一般社会では頻繁に使われている技能・能力でありながら、これまで初等中等教育ではアナログ中心で、デジタルで学習されることが少なかった活用能力である。このような「プレゼンテーション力」や「情報活用能力」を育成する学習ができるのが、ICT活用の大きな利点だと考えられる。

 

■ 将来を展望した学校でのICT活用

 

 ウィズコロナ時代の今、まず教育行政に望みたいのは、「オンライン会議改革」である。企業では現在、「リモートワーク改革」が始まっている。在宅勤務はもちろん、都会の会社の社員が地方に移り住みリモートで働く「ワーケーション」をはじめ、都心の本社機能を地方に移したり本社ビルを売却したりする動きも出ている。

 

 一方で教育界では、いまだに「昭和時代の働き方」が続いている。部活動や生徒指導による長時間労働と休日出勤、会議や研修による業務の多忙化がある。教育行政は率先して、まずは行政が主催する会議や研修、調査報告などをできるかぎりオンライン化し、出張や移動による時間的ロスをなくす「働き方改革」を進めてほしい。

 

 さて、教員に私が勧めたいICT活用は、「オンライン授業用の動画制作」である。これは、「授業の解説場面を録画した15分間程度の動画」を制作することで、この動画を、学校での教育活動で配信したり、授業研究や教員研修で活用したりするのである。一般的に、「1時限」の授業時間は小学校で45分、中学校で50分である。このうち、教員による授業の解説場面は15分程度で、残りの時間が児童生徒の思考、演習、操作、実験、討論などにあてられている。この授業の肝となる解説場面を撮影した動画をつくろうというのである。

 

 なぜ授業動画を制作するのか。それは第1に、すべての教員が、動画制作に必要なICT機器の操作技術や制作ノウハウを習得するためである。第2に、教員が、児童生徒の学習意欲を高め理解を深める効果的な指導法・授業技能を向上させるためである。第3に、ベテラン教員の授業ノウハウを若年教員が学ぶためである。この「15分間程度の授業動画」は、制作に携わった教員の授業改善に効果をもたらすことが、横浜市での実践事例や教員養成大学での実践研究で報告されている。録画した動画を本人や教員同士が見直すことで、授業の質的改善や指導力の向上に関する知見が得られるのである。この方法を今後、新しい指導方法を開発する技法として活用してはどうだろうか。

 

 この授業動画は、ほかにも活用できる場面が考えられ応用が利く。たとえば、緊急・災害時に学校が臨時休校になった場合、対面授業からオンライン授業に切り替えるときに児童生徒に配信して活用できる。また、病気療養や不登校などで学校を休んでいる児童生徒は、これまでは対面授業に参加することができなかったが、この動画を配信することで病室や自宅などで学習ができる。繰り返し視聴して復習もできるし、オンラインで直接、教員に質問をすることもできるだろう。

 

 最後に、公立小中学校での将来的なICT活用について述べたい。私がぜひ勧めたいのは、オンライン会議システムを活用した児童生徒による広域的な学校間交流である。教科・領域を超えて、地域の課題やSDGs(持続可能な開発目標Sustainable Development Goals)などの地球規模の課題について実践発表したり意見交流したりする。そこでの学びは交流した児童生徒に、ひとつの学校での学習では得られない説得力のある広範で深い知識と知恵をもたらすだろう。

 

 しかし、これは新型コロナウイルス感染症が終息して学校の教育活動が再び軌道に乗ってからのことで、ウィズコロナ時代の今、この活用法はひとまずは留保しておかなければならない。

(浩)

 

※ 読解力の重要性やスマホ・タブレット使用の弊害の知見については、下記の書籍が参考になります。 『社会に出るあなたに伝えたい なぜ、読解力が必要なのか?』池上彰・著、講談社α新書、2020.11

※ オンライン会議システムを活用した広域的な学校間交流については、下記の連載コラムでも紹介していますのでお読みいただければ幸いです。

学校の四季⑬「学校が受け継ぐ文化」

https://www.gaccom.jp/wp/article/school-shiki-13.html

 

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