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明日へ届ける手紙⑰「ウィズコロナ時代の教育」(中)

 ■ コロナ禍での学校

 

 先日、地方テレビ局のニュース番組を見ていたら「コロナ禍での学校」特集をしていて、ある私立中高一貫校の中学生の授業風景が映し出された。感染防止対策のために生徒机の前・横にアクリル板がはめられた座席に座って、マスク姿の生徒は手元でタブレット端末を操りながら授業を受けていた。進路指導部長は、「臨時休校中もタブレット端末を使ってオンライン授業をしたので教科の進度の遅れは最小限で済みました」と語っていた。インタビュアーが「タブレット端末は生徒全員が持っているのですか?」と質問すると、「生徒は入学時にタブレット端末を購入することになっています」と答えた。

 

 この番組ディレクターは何故、いわば例外的な中学校を取材対象に選んだのだろうと私は、意図を計りかねた。コロナ禍を教育のデジタル化で乗り越えようと奮闘している学校の姿を伝えたかったのかと推測するが、それならば同じ視点から公立中学校の実情も取材すべきではなかったか、というのが私の率直な感想だ。

 

 ■ 公教育でも異なる教育環境

 

 我が国では、教科書や学習内容、教職員の定数などは国の基準で定められていて全国どの地域でも等しく教育が行われている。一方で、自治体が設置者である学校施設・設備など教育環境については、各自治体によって違いがある。その違いは自治体の教育予算などに大きく影響されるが、必ずしも大きな自治体にある学校の教育環境は立派で、中小自治体の学校の教育環境が劣っているというわけではない。都会よりむしろ、地方にある学校施設のほうがはるかに充実している事例を見聞きした経験のある人は多いのではないか。

 

 このことはICT環境についても言える。都市部の大規模学校のほうが地方の小規模学校よりもICT環境が整っていると思っているのであれば、それは誤解である。小規模学校は、校内無線LANなどの設備工事が比較的容易で、また児童生徒数が少ないことからタブレット端末などの機器購入費も少なくて済む。それでICT環境はこれまでも、小規模学校のほうが整っていることが多かった。ICT整備計画が進まなかったのはむしろ、地方都市の中・大規模学校だった。地方都市では、学校数が多いのでコンピューター教室の維持と機器更新に経費が追いつかず、また教室数が多いため校内LANの整備も進まなかった。普通教室に大画面モニターや液晶プロジェクターさえなかなか配備されない状況が長く続いたのである。地方都市の中・大規模学校こそ、ICT教育環境の整備から取り残されてきたといえるかもしれない。

 

 2019年12月に文科省から出された『GIGAスクール構想の実現パッケージ』が画期的だったのは、このような状況を払拭するために、学校ICT環境の整備調達をより容易にできるよう国が条件を整えたことである。たとえば「学習者用端末」や「校内LAN整備」の標準仕様を明示していて、都道府県レベルでの共同調達ができるようにした。このことでICT整備の知見の少ない自治体でも整備がしやすくなるとともに、大量調達で自治体あたりの整備コストも下がるなど大きな効果が期待できるようになった。

 

 また、このパッケージには、民間企業が社会貢献活動として学校へ支援協力をすることを促す事業内容が記載されている。この事業でたとえば、学校が通信環境の無償提供や中古の学習用端末の提供を受けたり、校内にICTに堪能な教員がいない学校にはICT支援員として人的サポートを受けたりすることができるようになる。「プログラミング教育」が行われている現在、このようなICT技術者は学校にとっては欠かせない。それを民間企業や団体が行っている社会貢献活動とマッチングさせようとしているのは妙案だ。

 

 ■ 教育でのICT活用の「入り口」

 

 このような状況を踏まえて、学校でのICT活用としてまず考えたいのは、「デジタル教科書を活用した授業へのシフト」である。今年度、児童生徒一人に一台タブレット端末が配備されると、タブレット端末はようやく学校の「標準教具」になる。

 

 教員が授業をするときに時間をかけ苦心するのが、その指導内容を生徒に効果的に理解させる「教材・教具つくり」である。これまでは「教材・教具」といえばたとえば自作の立体模型であったり、黒板やホワイトボードに貼る拡大掲示物であったり、ボードゲームのような教具であったり、プリント類であったりと、どちらかと言えばアナログ教材が多かった。これからはそれに加えて「デジタル教科書」を活用して「教材・教具」の一部をデジタル化することを推進したい。「デジタル教科書」の活用法は多岐にわたり、また効率的・効果的である。それぞれの教員の個性に合った独自の指導法を開発して、そこをICT活用の「入り口」にするとよいのではないか。

 

 2020年11月現在、文科省の有識者会議である「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」では、デジタル教科書の使用時間の基準について議論がされている。デジタル教科書は、2019年度から各学校で紙の教科書と併用されるようになったが、児童生徒の視力低下など健康面に及ぼす影響を配慮して、使用時間の基準が「各教科の授業時数の2分の1未満」と定められている。この基準を緩和しようとする議論が行われているのである。年内には方向性が示されるという。

 

 いま全国の学校で、「デジタル教科書」を授業時数の2分の1まで活用している教員がどれ位いるのか、私には想像できない。教科にもよるが現実にはあまり活用されていないのが実態ではないか。児童生徒の健康面への配慮を大事にしつつ、「デジタル教科書」の一層の利活用を促したい。(続く)

(浩)

 

※ 学校でのICTの歴史や現状について、下記の連載コラムでも紹介していますのでお読みいただければ幸いです。

 学校の四季⑫「ICTが変える未来の教室」

https://www.gaccom.jp/wp/article/school-shiki-12.html

 学校の四季㉓㉔㉕「学校の研修」(上)(中)(下)

https://www.gaccom.jp/wp/article/school-shiki-23.html

https://www.gaccom.jp/wp/article/school-shiki-24.html

https://www.gaccom.jp/wp/article/school-shiki-25.html

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