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明日へ届ける手紙⑯「ウィズコロナ時代の教育」(上)

 

 ■ 新型コロナ対応事例に学ぶ

 

 話は遡るが5月初めに『ニューヨーク・タイムズ電子版』が、日本がついに「コロナ発生届」を手書きからデジタル化することになったと報じたことが、国内で話題になった。コロナ対応で多忙を極める日本の医療現場の医師が、「コロナ発生届」を手書きで役所にファクス送信する仕組みに不満をツイートしたことが発端で、これに政府が対応して5月中旬からオンラインで報告ができるようになるという内容の、日本のデジタル事情への驚きと皮肉を込めた記事だった。

 

 そんな医療現場の事情を知らなかった私は、この米国人記者の驚きに共感しつつ、すぐに手続きの変更をおこなった政府の対応も称賛したい気持ちになった。ところが少し経ってから私は、この問題の背景には我が国特有の厄介な課題があることを知ることになった。その後の国内報道によると、5月中旬どころか7月末になっても、東京23区や大阪市などは、国が作ったこのシステムを未導入だということがわかったのである。導入が進まなかった要因は、国と自治体との間のシステムやデータ管理、情報共有範囲などの相違や、自治体での集計の混乱などが報じられていた。

 

 この事例から私は、教育におけるデジタル化推進の課題の現状が透けて見えるように感じた。このデジタル行政の混乱は教育のICT化推進の課題と共通しているのではないかと考えさせられたのである。

 

 ■ コロナ禍で顕在化した教育環境の格差

 

 以前私はこのコラムに、新型コロナウイルス感染症への「緊急事態宣言」が発令されてから、全国の学校がどのような状況にあるのか、地方新聞の記事から探った内容を寄稿した。

 

 そのころ公立学校のデジタル活用は、民間や教育機関の学習教材をネット配信するのが主流だった。今話題になっているようなオンライン授業に類する記事は、私が調べた範囲では、私立や国立学校での事例はいくつか掲載されていたものの、公立学校での記事はほとんど見つけることができなかった。学校がオンライン授業をしようとしても、そもそも児童生徒にノートPCやタブレット端末が行き渡っていなかったからである。

 

 文部科学省の調査によると、臨時休校中に児童生徒が動画教材を利用していたのは、小学校22%、中学校23%、高等学校30%だった。また、オンライン会議システムを授業に活用していたのは、小学校8%、中学校10%に過ぎなかった。これが現在の小中学校のICTの現状である。ちなみに、中国では2020年1月にはすでに、小中学校の休校期間中はオンライン授業で学習を継続する方針が打ち出されていた。

 

 高等学校のオンライン授業の活用状況は47%で小中学校と比べると高い。しかし、これは臨時休校中での調査結果であり、また生徒数ではなく高校数での比率であるから、当該高校の全生徒が活用したのか、活用した授業時数はどれ位なのかは定かではない。コロナ禍以前の高校生の日常的なデジタル活用状況はどうだったかは、以下の調査結果が参考になる。

 

 OECD(経済協力開発機構)が2018年、加盟国・地域の約60万人の15歳の生徒を対象に実施した「国際学習到達度調査」で、デジタル機器の使用について質問調査した結果がある。

 

 「1週間のうち、教室の授業でデジタル機器をどのくらい利用しますか?」の設問に、「デジタル機器を使用しない」と回答した日本の15歳(高校1年生)は約8割で、この設問に答えた31カ国中最下位だった。教科別では、国語では83.0%(OECD平均48.2%)、数学では89.0%(同54.4%)、理科では75.9%(同43.9%)となっていて、日本の比率はそれぞれ際立って高かった。

 

 一方、遊びでの利用では、「毎日あるいはほぼ毎日ネット上でチャットをする」割合は、87.4%(OECD平均67.3%)、「毎日あるいはほぼ毎日一人用ゲームで遊ぶ」割合は、47.7%(同26.7%)で最も高かった。これがコロナ禍以前の日本の高校1年生の実態だったのである。

 

 ■ ICT活用は教育の標準(スタンダード)

 

 文部科学省は、公立小中学校でICT活用がなかなか広がらない現状を脱却すべく「GIGAスクール構想」を打ち出し、2019年12月には小中学校で1人1台のタブレット端末など学習端末を配備する予算措置を行った。

 

 公立小中学校がICT活用に積極的に取り組めなかった主な要因は言うまでもなく、自治体の財源不足でICT環境整備が思うように進まなかったからである。それが、国が予算措置をしたことで各自治体では急速に整備が進んでいる。またコロナ禍による国の補正予算でその整備計画が前倒しされ、今年度から来年度にかけて全国すべての児童生徒に1人1台のノートPCかタブレット端末が提供される状況になった。また、共同通信社の9月の配信記事によると、文部科学省は、デジタル教科書の購入代金を国が全額負担して、小学5、6年生に1教科分、中学生に2教科分を提供する方針だとも報じている。

 

 公立小中学校がこれまでICT活用に積極的に取り組めなかった、もうひとつの要因がある。それは、小中学校にICT活用に関する知識や技能をもつ教職員がそもそも少なかったという事情である。

 

 ところがこの課題も、コロナ禍で一変しつつある。臨時休校中に家庭訪問ができなくなり、児童生徒との通信・連絡手段としてICTを活用せざるを得ない状況が生じたからである。また、休校などが続く災害・非常時には即座に、対面授業の代替手段として「オンライン授業」に切り替えられる準備が必要だということを、現実的な課題として教職員が痛感したからである。言わば必要に迫られたこれらの事情で、教員によるICT活用の機運が高まった。また、臨時休校で教員に時間的な余裕が生じたことで、校内でのICT技術研修やオンラインを活用した教科研修が活性化した。この期間に、各学校が取り組んだ授業動画の制作・配信やリモート学級活動、オンライン授業の研修などで、多くの教員のICTスキルは格段に向上したと思われる。この状況を「ピンチをチャンスに転換する」絶好の契機として、ICT活用を一気に「教育の標準(スタンダード)」とすることが、今とるべき学校の正しい経営方針だと私には思える。

 

 では、ウィズコロナ時代に、公教育でICT活用を「教育標準」とするにはどんな課題があり、またどのような活用方策が現実的で有効なのか。そのことを次回では考えたい。

(続く)

(浩)

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