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明日へ届ける手紙⑩「ワールド・カフェの夜」(中)

 

 ■ ワールド・カフェの会場

 

 そもそも「ワールド・カフェ」とは、どのような取り組みなのか。そのことから話を始めよう。

 

 会場である公民館の集会室には、テーブルを囲んだ4人のグループ席が20組作られていた。頭の中で4名グループ80名の結婚披露宴の会場を想像してもらうとわかりやすいだろう。

 

 かつては「懇談会」の会場といえば、教室の座席のように配置されているのが普通だった。さすがに最近ではこんなスクール形式の会場は少なくなった。座席をロの字型に配置したり車座にしたり工夫するようになってきた。話す相手の顔が見えるだけで格段に話しやすくなる、そんな経験をした人は多いと思う。

 

 ワールド・カフェの会場では、各グループのテーブルに、白色の模造紙が敷かれ8色マーカーと飾り花とキャンデーなどのお菓子が用意されている。

 飾り花とお菓子は、カフェの雰囲気を出して参加者にリラックスしてもらおうとする「おもてなし」である。模造紙と8色マーカーは、話し合いの内容を参加者が自由にキーワードやイラストや図式化してメモするためのものだ。私が参加した会場では、母親と一緒に来た幼児が黙々とお絵かきに使っていたのが微笑ましかった。もうひとつ「トーキング・オブジェクト」と呼ばれる小道具が置かれている。これについては後述する。

 

 ■ ワールド・カフェの進行

 

 ワールド・カフェの最大の特徴は、途中でグループのメンバーが変わることである。始めのグループで20分間程度話し合いをすると、4名のうちホスト役の1名を除いて残りの3名はそれぞれ別のグループに移動する。これを旅人が別の国へ旅立って行く様子に譬えて「ワールド・カフェ」と呼ぶのである。

 

 そして新しくできたグループでまた、20分間程度話し合いをする。そのとき参加者は新たなメンバーに対して、前のグループで話し合った内容やアイデアを伝えることが使命になる。そうすることで各グループの話し合いの共通点を確認したり新たなインスピレーションを誘発したりすることにつながるからだ。この過程は、ミツバチの行動に譬えて「他花受粉」とも呼ばれている。

 

 このセッションが終わると、ホスト役を除いた3名のメンバーはまた、元のグループ席へ帰る。そして、自分が旅先で得たアイデア、知見やインスピレーションを元のメンバーとシェアし話し合いを深めていくのである。

 

 つまり参加者は一会場で6名の他人と会話することになる。しかもその会話の内容は、6名がそれぞれ属していたグループ24名分の意見が反映している会話になる。言い換えれば80名の参加者のうち約3割の人の意見を聞くことができる。これが旧来の「懇談会」と決定的に違う点だ。どんな懇談会でも自分も発言して20名以上の参加者の意見を聞けるような機会はほとんどないだろう。ましてその内容を再度掘り下げて話し合う時間をもつことはとてもできないのが通常ではないか。

 

 ■ ワールド・カフェのルール

 

 ここまで説明を読んだ読者は、なるほどこの方法なら100名規模でも効果的な懇談会ができるかもしれないと納得できたのではないだろうか。事実、「ワールド・カフェ」は数百人規模、ときには1000人規模でも行われているという。旧来の「懇談会」にこれまで不完全燃焼の思いをもっていた参加者も、「これなら一度参加してみようかな」「なにか発見がありそうだ」と思えるのではないか。

 

 さてしかし読者には、次のような疑問が浮かんだかもしれない。「その方法はいいのだけれど」「私が求めているのは形式的な充実だけではなくて懇談会のもっと別の要素、そう、話し合いの中身なのだ」「その方法で本当に話し合いが充実するのか?」という新たな疑問である。

 

 旧来の「懇談会」で成果が得られにくい理由には、参加者のモチベーションの低さとともに参加者が話し合いのルールを十分理解していないことがあるのではないか、と私には思える。

 

 これまで私が主催したり進行したりしてきた会議の経験から言えば、参加者に事前に「この会議の話し合いのルールは何か」という理解をしてもらうことが、会議を成功させるのにいちばん大事なことだと思う。

 参加者に基本的な「話し合い」のルールの理解が図られていないときや、「話し合い」にはその場では語られない「暗黙のルール」があるという自覚がないときには、会議は思うような成果を得られにくかった。

 

 「ワールド・カフェ」の話し合いには「エチケット」と呼ばれる基本的なルールがある。テーブルに置かれている「トーキング・オブジェクト」はその小道具である。そして、ルールを参加者に確実に伝えるために、その役割をはたす「ファシリテーター」がいるのである。(続く)

(浩)

 

※ 本稿は実際にあった出来事を素材にしたフィクションです。

※ 「ファシリテーター」について興味のある方は、下記の書籍を参考にしてください。

『ファシリテーション入門〈第2版〉』堀公俊 著、日経文庫、2018.8

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