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続・学校の四季⑭「2学期の係活動」(中)



■ 5年1組第5回学級会

 9月初旬に開かれた第5回学級会の議題は、「2学期の係活動の計画をしよう」だった。会の流れは、黒板右側に貼られたマグネット式ホワイトボードに書いている。

 ① はじめのことば
 ② 議題の確認
 ③ 提案理由やめあての確認
 ④ 係活動の発表(8つの係)
 ➄ 決まったことの発表
 ⑥ 振り返り
 ⑦ 先生の話
 ⑧ おわりのことば
 ※各係の活動(15分)

 計画委員のカオリがマーカーで書いた会議の進行表である。①から⑧までが学級会、※印はその後の各係の準備作業や計画時間という段取りだ。なぜ、準備作業などが加わっているのかというと、翌週の月曜からすぐに係活動が始まるからだ。

 学級会の司会と議長は計画委員がすることになっている。数年前までは、学級会の司会は学級委員がすることになっていた。しかしその後学校で、児童の実態を点検し多くの児童に司会のスキルを身につけさせることが必要だと指導方針を変えた。私の学級では各係のリーダーが輪番制で計画委員になり学級会の進行を務めることにしている。今回の学級会の計画委員は、学習係のカオリと飼育係のトモヒロで、2人が共同で司会と議長の役割を務めることになっていた。

 「それでは、第5回学級会を始めます。今日の議題は、『2学期の係活動の計画をしよう』です。初めの30分間でホワイトボードの⑧まで進めます。残りの15分間はそれぞれの係活動の準備や作業をしてください」と、カオリが宣言した。
 「次に、提案理由とめあての確認をします。計画委員のトモヒロくんが説明します。トモヒロくんお願いします」
 「はい。今日の議題の提案理由は、1学期の係活動を振り返って、良かった点やうまくいかなかった点を話し合い2学期の係活動をよりよい活動にするためです。そのために各係から1学期の良かった点と2学期に工夫する点をひとつずつ発表してください。今日の発表のめあては、『具体例を出してわかりやすく話す』です」

 司会・議長のカオリとトモヒロは、「手引き」に基づいて発言している。それぞれ手元にパウチした『司会の手引き』を持っているのである。これは、私が部長を務めている特別活動部の教員が作成した『学習ツール』だ。児童の発達段階に応じて低・中・高学年別に異なる「手引き」が作成されている。高学年用の『司会の手引き』は1枚に収まらず3枚に分かれており左上に穴を開けリングで綴っている。パウチしているのは、何回も使うことや空欄部分にセロテープで紙を貼ることを想定しているからである。「議題」や「提案理由」などの欄は大きく余白を開けており、司会をする計画委員はその部分に学級会の議題に応じて毎回、違う発言内容を手書きでメモしてセロテープで貼り付けている。司会者はそれを見ながら学級会の議事進行をするのである。

■ 係活動の発表

 「それでは、保健係から発表してください」と司会のカオリが保健係に促した。
 「はい。保健係は1学期に、毎月の目標を作って教室の行事予定表の横に標語を貼りました。6月の標語は『外遊びから戻ったら手洗いをしよう』で、6月の第1週に保健係が、教室前の手洗い場でみんなに声掛けをしました。みんなが協力してくれて嬉しかったです。2学期も月毎に目標を決めて活動を続けていきます」と保健係のハルカが発表した。
 「意見や質問はありませんか?」とカオリが発言を促すと、「はい」とタダシが手を挙げた。
 「タダシくん」とカオリが指名した。
 「6月の手洗い月間はよかったと思うんだけど、ぼくはハンカチを忘れたときに服で手を拭いたらハルカさんに叱られました。あまり厳しく叱らないようにしてほしいです」とタダシが発言すると、教室から明るい笑い声が上がった。タダシとハルカとの日頃の交流を思い起こさせる発言だったからである。
 「それは、タダシくんがTシャツで手を拭いただけじゃなく、服の前を持ち上げて顔まで拭いたからです」とハルカが反論すると、教室から爆笑が沸き上がった。
 「じゃあ、どこで拭いたらいいんですか?」タダシはむきになって言い返した。
 「ハンカチがなければ代わりに、教室に置いてある体操服で拭いたらいいんじゃないですか?とにかくTシャツで拭くのは不衛生だと思います」とハルカがピシャリと即答すると、思わず教室のあちこちから感嘆の声が起こった。それほどハルカの回答には説得力があったのだ。

■ イラスト係の発表

 このように各係の報告は続き、クラスに8つある係活動のうち7つの係の発表が終わった。いよいよ残すところは「イラスト係」の発表だけになった。学級会の前日、私は計画委員との打ち合わせで、発表する係の順番など細部を決めてから、イラスト係がなぞなぞ係に替わることを、その理由も含めて2人に告げた。そして、こう付け加えた。
 「イラスト係の提案のあと、みんなから質問や意見が出ると思います。いろんな意見があると思うけど2人で相談しながら進行をお願いします。判断に困ったらサインを送ってください。先生がアドバイスしますから」

 「最後に、イラスト係さんお願いします。イラスト係からは大事な提案があるので、最後までしっかり聞いてください」とカオリの声が響いた。カオリのその発言で、学級内には一体どんなことなのだろうと興味を引かれた視線が、テツヤに集まった。
 「イラスト係は、教室の後ろの壁にイラストコーナーを作って、係活動の時間に作ったイラストを掲示してきました。スポーツや乗り物のイラストが多かったので、もっといろいろな種類のイラストがあればよかったかなと思っています。けれども、新しいイラストのアイデアがなくなってきたので、2学期からの活動について提案をします」とテツヤは話した。みんなはテツヤが次になにを言うのかじっと注目していた。
 「ぼくらはイラスト係をやめて、なぞなぞ係にするつもりです」
 「ええーっ‼」と教室内に驚きの声が上がり、そのあと、賑やかな笑い声が続いた。

 「静かにしてください!」とトモヒロがひときわ大きな声で言った。
 「イラスト係の提案はわかりましたか。これから質問や意見を言ってください」
 「はいっ!」と学級委員のユウタが手を挙げた。
 「イラスト係が困っている話は1学期にも聞いたことがあるので、係を替えることは構わないと思うんですが、『なぞなぞ係』というのはなんというかどうしてそうなのかなと思います。理由を教えてください」
 ユウスケが挙手をして立ち上がった。
 「ぼくらは2人で相談したんです。自分たちが得意でみんなに楽しんでもらえるものってなんだろうと考えました。そして、思いついたのが、中学年のときに得意だったなぞなぞクイズだったんです。これなら3学期が終わるまで、出題できるんじゃないかと思ったので、決めました」
 「ああ、そういえば4年生のとき楽しかったよね」と4年生のときに同級生だったミナミが呟いた。何人かは懐かし気にうなずいていた。

 そのあと、ユウスケの発言に同調してイラスト係を援護する意見が続いた。私はほっとしながら窓際の教卓からその様子を眺めていた。このまま議論が決着するかと思ったその時だった。
 「はいっ。質問があります」とアカネが手を挙げたのだった。
 「わたしは、イラストコーナーのイラストは自分の好みと合わないのであまり熱心には見ていませんでした。でも今日、2人の話を聞いて、イラストを描くにはたくさん時間もかかったと思うので、大変だったんだなとわかりました。それで、なぞなぞ係に替わるのは賛成です」と言ってから、テツヤとユウスケのほうを向いた。
 「それで、質問です。4年生のときは『帰りの会』になぞなぞタイムがあったと思うんですが、今度はいつ出題する予定ですか?」

 私は思わず、司会・議長の2人のほうを見た。事前の打ち合わせでは、そこまで細かい話はしていなかったのである。もちろん『司会の手引き』にもそんなことは書かれていない。〈2人はどう進めるのだろう〉と、はらはらしながら私は次の展開を待った。
 「イラスト係さん、どうですか?」と、トモヒロが訊ねた。テツヤとユウスケは顔を見合わせてからテツヤが手を挙げた。
 「まだ、そこまで考えていません」
 すると、司会のカオリが挙手をして「司会だけども、発言してもいいですか?」と言った。みんなは少し驚いた様子だったが、「いいです」と応えたので、トモヒロが「カオリさん」と指名した。
 「学習係のリーダーとして発言します。学習係が金曜日の朝、活動している『10分復習プリント』の答え合わせが終わった後に出題すればいいと思います。時間が短くて問題が残ったら、月曜日の係活動の時間に教室の後ろのイラストコーナー、間違えました、なぞなぞコーナーに貼って出題するというのはどうでしょう」
 「イラスト係さん、どうですか」とトモヒロが発言を促した。
 「いいアイデアだと思います。出題する時間をもらえると、ぼくらは嬉しいです。お願いします」とテツヤが言い、ユウスケも頷いた。
 このようにして、イラスト係がなぞなぞ係に替わることが学級会で承認された。

 これまでも私は教室で、子どもたちのこういうやり取りを聞くたびに、子どもの心の成長や教室で学ぶことの意義を深く考えさせられることが多かった。教室は、新しい知識や技能などを獲得する大切な場である。それは当然のことだが、それだけではない「知恵」を子どもたちは教室で授かっているのだろう。大人になると、よほど印象深いエピソード以外その殆どは記憶の底に沈んでしまうが、こういった教室での日々の些細なエピソードや交流から、きっと私たちはひとりでは到底得ることのできない人間としての大事な「知恵」を身につけてきたのではないか、と私には思える。そして、その思いは、2学期から始まったなぞなぞ係の活動でも、私が実感することになるのだった。(続く)

(浩)


※ 「続・学校の四季」シリーズは創作で、登場人物や団体名などは架空のものです。

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