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続・学校の四季⑬「2学期の係活動」(上)



 夏休みが明けると、最初の一週間は猛烈に慌ただしい。
 教室の後ろのロッカーの上には夏休みの自由研究や工作が所狭しと並べられている。教室横に特設した提出物置き場には、コンクール応募作品、読書感想文や『4教科まとめドリル』などが積み上げられ、教卓には『夏休み日記帳』が中開きに背表紙を上にして、文字どおり山のように積み上がっている。

 「さて」と私は、赤ペンで『夏休み日記帳』にコメントを書きながら黒板の横の行事予定表を確認した。今週金曜日には第5回学級会がある。議題は、「2学期の係活動を計画しよう」で2学期におこなう学級の係活動の計画を決めることになっていた。係活動とは、学級での生活や文化活動を維持し向上させるために、児童が主体的・継続的に取り組む活動をいう。学級会では、1学期に決めた係活動を2学期のスケジュールに合わせて活動計画を作るのが目的なのだが、今回は事情があってもうひとつ学級会で諮られる議題があった。

■ 夏休み前の相談

 その「事情」というは、1学期終業式を控えた7月の放課後の出来事から始まった。その日私は、生徒のいない教室に残っていつものように教卓でテストの採点をしていた。すると教室の後ろのドアがガラガラと開いて、テツヤとユウスケが入ってきた。
 「先生。いま少し時間ありますか?」とテツヤが言った。
 「ああいいよ、突然なにかな?」
 「イラスト係のことで相談があります」
 「ぼくたち、とても困っているんです。ぼくらは一所懸命に絵を描いて教室の後ろのイラストコーナーに貼っているつもりなんですけど、学級のみんなは面白くないと言っているようなんです」とユウスケが続けた。

 私は少し驚いて、「それは初めて聞いたな。先生もときどき、イラストコーナーの掲示は見るけど、丁寧に描けていてすごく感心していたんだけどなぁ」と応えた。
 私がそう言うと、2人はにこっと笑顔になった。テツヤは笑うと右の頬にえくぼができる。しかし、テツヤはすぐに真顔になって、こう続けた。
 「先週の係活動の時間にぼくらがイラストを描いていると女子が3人やって来て、こんなことを言ったんです。『イラストコーナーのイラストって、スポーツと乗り物のイラストばかりで楽しくない』『もっとかわいい動物の絵とかアニメの絵とか描いてほしい』『はっきり言うとイラストコーナーはみんなにあまり人気がない』」

 「へぇ、そんなことがあったの。でも先生は、この間のサッカーの絵とか少し前に掲示していた飛行機の解説イラストとか詳しく立体的に描けていて上手だと思ったけどなぁ」
 私がそう応えると、2人はまたにこっと笑顔になった。今度は、ユウスケが言った。
 「ぼくらは動物の絵は苦手なんです。乗り物とか人間の絵は得意なんですけど、動物とかアニメの絵は難しいんです。それでついつい、スポーツや乗り物の絵が多くなってしまうんです」

■ イラスト係の危機

 1学期に発足したイラスト係は当初、テツヤとユウスケ、そしてアイリとミナミの4人がメンバーになる予定だった。ところが、係活動を決める学級会の直前に、女子2人はレクリエーション係に引き抜かれてしまい、残った男子2人は仕方なく最少人数で係活動を始めたという波乱の経緯があった。それでも2人は、教室の後ろの壁の一角に「イラストコーナー」を作り、2週間に1度の割合で自分たちが描いたイラストを掲示して、みんなに見て楽しんでもらう活動を怠らず行っていた。そのことを私は内心評価していたのである。

 「で、どうするつもりなんだい?」と私は、2人に問いかけた。なにか考えをもっているのではないかと思ったのだ。2人は顔を見合わせていたがなにも言わなかった。〈するとただ不満を言いに来ただけなのかな〉と私は思ったが、ふと見ると、ユウスケの右手がテツヤの左足の太腿をトントンと叩いて合図をしているのに気が付いた。それは〈テツヤが言ってよ〉とでも言いたげな合図だった。

 私は少し待ったがテツヤの決心がつかないようなので、2人の話に呼び水を向けることにした。
 「そういえば、アイリさんとミナミさんは、動物やアニメの絵を描くのが上手だったじゃない。あのふたりに頼んで協力してもらうというのはどうだろう?」
 この話題で2人は、表情が明るくなった。
 「先生もそう思いますか?よかった。ぼくらと同じ考えで」とテツヤは言ってユウスケの顔を見た。
 「ぼくらもそう思ったんです。ところが…」とユウスケは困った顔になった。
 「アイリさんはレクリエーション係のリーダーだし、忙しいから協力してもらうのは難しいと思うんです。この間のレクリエーション集会の前にも、準備の時間がないってぶつぶつ言っていたから」
 「ミナミさんには先週の昼休憩に、協力してくれないかなと話をしてみたんです。初めは動物の絵なら描きたいって言って乗り気だったんですが、結局、最近学習塾の課題が多いからって断られてしまいました」と、テツヤが付け加えた。そして2人は、顔を見合わせて大きなため息をついた。
 「そうなのか、それは困ったな」と私は言いつつ、2人がそこまで考えて調査もしていたことに大いに感心したのだった。

■ 2人の新たな提案

 ユウスケが続けて言った。
 「先生。それで、ぼくたちどうしようか行き詰まってから、いろいろと話し合ってこんなことを考えたんです」
 「それはどんなこと?」
 「イラスト係を止めて、2人で新しい係を始めたらどうだろう、と考えたんです。2人が得意なことで、学級のみんなにも役に立って楽しんでもらえるようなことってなんだろう、ともう一度考えてみたんです」
 そこまで考えてから相談に来たのかと、私は嬉しくなって椅子に座り直すと、背筋を伸ばして話を聞く姿勢を取った。
 「でもそんなことができるのか、まず先生に話を聞いてもらおうと思って今日、相談に来たんです」と言うと2人は、顔を見合わせて再び大きなため息をついた。

 「2人の話を聞いて、いろいろな事情が分かったし2人の気持ちも分かったから、先生は新しい係に替えても問題はないと思う。ただし、新しい係を作ることになったら、まず学級のみんなに説明をして了解してもらう必要があるだろうね。2学期から突然「別の係になりました」と言うのではみんなも驚くだろうし、それに反発が起きるかもしれない」
 2人は私の目をじっと食い入るように見ながら話を聞いていた。聞き終わると、表情は一転明るくなり笑顔に戻った。
 「じゃあ、みんなに説明して納得してもらえれば、新しい係に替えてもいいんですか?」
 「ああ、もちろんだよ。みんなが納得してくれればね。それで、一体どんな係にするつもりなんだい?」
 2人は顔を見合われてから私の方に向き直り、声を合わせて笑顔でこう宣言した。
 「それは、なぞなぞ係です!」

 「ええっ?!」
 思わず私は声を張り上げて、椅子から転げ落ちそうになった。私は、〈なんだって!それは低学年の係活動じゃないか!〉と心の中で声を荒げていた。(続く)

(浩)


※ 「続・学校の四季」シリーズは創作で、登場人物や団体名などは架空のものです。

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