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学校の歴史巡り➄「ランドセルの謎」



■ 最近のランドセル事情

 年明け、早いところでは2月ころから、百貨店などでは、特設の売り場をつくってランドセル商戦が始まります。けれども、この4月に入学する新入学児童のためのランドセルではありません。24年度に入学する児童のランドセル商戦が始まるのです。

 近年、ランドセルは軽量化と高額化が話題となっています。教科書が大判化しページが増えるとともにタブレット端末の貸与などでますます学用品の重量が増え、ランドセルの軽量化が求められています。また、ブランドやデザインを含めてランドセルの高機能化と高額商品化が進んでいるのが現状です。

 一方で、社会全体で見てみると、ランドセルを買えない困窮家庭の就学児童の問題があります。児童養護施設に長年、ランドセルを寄付し続けた匿名「タイガーマスク・伊達直人」氏の活動が全国に広がったことも記憶に新しい出来事です。また、使わなくなった中古のランドセルを集めて修理・再生し、自治体に寄贈している民間団体の活動なども忘れてはならないと思います。

 ランドセルの色は22年前までは、男子が黒色、女子が赤色と2色しかなかったそうです。それが2001年、ある企業から24色のランドセルが発売され業界に衝撃が走りました。それ以降、ランドセルの多色化が進み、たとえば茨城県内の複数の自治体では23年度から、新入学児童に無償配布しているランドセルの色を多様性や個性を尊重するために、男女ともキャメル色や紺色に統一したり、6色のなかから選択できるようにしたり変更しているとのことです。

 昨年、ランドセルや通学かばんの軽量化について、いくつか新聞記事を読む機会がありましたので紹介します。山口県防府市が、23年度の新入学児童に無償配布する通学用かばんの重量は920gだそうです。また、富山県立山町は、登山用品を製作している会社に依頼して900gの通学用バックパックを開発、23年度の新入学児童にプレゼントするとのことです。このバックパックは、ほかの学年の希望する児童にも、町内の店舗で販売される予定だそうです。

■ ランドセルの歴史

 ランドセルは、日本特有の学校文化だといわれています。いったいなぜ、日本の小学生はランドセルを使うことになったのでしょうか。その歴史を探ってみたいと思います。

 ランドセルのルーツを辿ると、江戸時代の末期、幕末に行き着きます。幕末にヨーロッパ諸国から、大砲や銃などの武器が輸入され軍隊制度がもたらされたときに、軍用品である布製の背嚢(はいのう)も輸入され、この物品を意味するオランダ語の「ランセル(ransel)」がランドセルの語源になっているのだそうです。

 小学生がランドセルを通学かばんとして使うようになるのは、明治時代になってからです。日本で初めてランドセルを通学かばんとして使い始めたのは学習院初等科で、1885(明治18)年に、「学用品は自分で持ってくる」という考えから、軍隊が使用していた背嚢を使い始めたのがきっかけだといわれています。やがて、この通学用の背負い型かばんのことを、背嚢の名称「ランセル」が変化して、「ランドセル」と呼ぶようになります。当時の材質は布製で、形状は現代のリュックサックに近い形をしていたそうです。

 学習院初等科がなぜ、「学用品は自分で持ってくる」と決めたのかというと、当時から、学習院には皇族、華族だけでなく一般家庭の子どもも通っており、馬車や人力車で通学したり、お付きの者に荷物を持たせて通学したりする生徒がいたからだそうです。そこで学習院は、「学校では子どもは平等。教育の場に家庭環境を持ち込まない」との理念から、まず、1879(明治12)年に制服を採用し、その後ランドセルの使用も始めることになります。

 初めは布製でリュックサック型だったランドセルが、現在のような形になったのは、1887(明治20)年に伊藤博文が大正天皇の入学を祝い贈ったものが、その後のランドセルの原型になっているからだそうです。後年、学習院では、ランドセルの材質と色を黒革に決め(1890年)、形や規格も統一されます(1897年)。現在のランドセルの規格は、ランドセル工業会が、工業会独自の「規定標準寸法」で決めていて、背幅24cm前後、背丈28cm前後、蓋の長さ43cm前後と設定されています。子どもの体格や使用時の安全面に配慮して決められているとのことです。

 これから先の時代に、ランドセルはどのように変化を遂げていくのでしょうか。中学生の手提げ通学かばんは、現代ではほとんどがバックパック型に置き換わっています。また、かつては社会人の必携ツールであり定番でもあった手提げビジネスバッグも多くが、自転車通勤や出張に便利なバックパック型に変化してきています。小学生のランドセルも、近い将来、本稿で紹介したような通学用バックパックに置き換わっていくことも考えられます。しかしそれは、ランドセルの長い歴史から見れば、ランドセルの原型であった「布製でリュックサック型」に原点回帰しているのであって、驚くことではないのかもしれません。

(浩)


※ 本稿で話題にした内容は、次の雑誌や新聞の記事を参考にしています。
「ニッポン・ロングセラー考 vol.11ランドセル」『COMZINE』2004年4月号 NTTコムウェア発行
「贈呈ランドセル多色化 茨城県内自治体、選択肢を拡大 多様性や個性を尊重」茨城新聞 2022年6月30日付
「新1年生の通学かばん無料配布 ランドセルより軽い920グラム」中国新聞 2022年9月8日付
「軽くて丈夫通学用バックパック 立山町が新入生に配布」北國新聞 2022年10月12日付
なお、このバックパックは反響を呼び、22年12月から全国で販売されていますので付記しておきます。

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