» コラム

学校の歴史巡り②「集会での号令の謎」

 

■ 集会や体育での号令

 

 10月、神無月。いよいよ秋季運動会・体育大会の時季になりました。グラウンドからは、こんな号令が聞こえてきます。

「休め、気をつけ。前へならえ、なおれ。右向け、右!」

 

 さて、集会や体育での集合時によく使われるこの「号令」は一体いつころから、このような形で行われるようになったのでしょうか。それが、今回のテーマです。

 

 学校での集合時の号令は、「体育科」で使われている集団行動の号令が基本になっています。現在、小学校で施行されている『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説・体育編』に次のような記述があります。

====================

「集団行動」

 各教科、特別活動等の教育活動及び日常の緊急時等では、集団が一つの単位となって、秩序正しく、能率的に、安全に行動することが求められることが多い。したがって、児童がそれぞれの活動の場にふさわしい集団としての行動様式を身に付けておくことが望まれる。

 体育の授業における運動領域の学習では、学級単位あるいは学級を幾つかに分けた小集団で行われることが多く、そこでの活動を円滑に行うには、児童が学級単位あるいは小集団で、秩序正しく、能率的に行動するために必要な基本的なものを身に付けておくことが大切である。

====================

 ここで述べられている「集団行動」の内容を具体的に行動様式にするために「号令」が活用されているのです。

 

■ 集団行動の指導

 

 「体育科」や「特別活動」で行われる「集団行動」は、世界各国ではあまり一般的な指導ではないことから、日本は学校で集団行動を教えているので、日本人の協調性や行動様式の同調性がより育まれるのではないかともいわれます。この「集団行動」は日本全国どの地域の学校に行ってもほとんど同じ内容で行われていますが、それには理由があります。

 

 現在行われている「集団行動」の指導は、文部科学省が出している『指導の手引』の内容に基づいて、全国各地の学校で児童生徒に教えられているのです。「学校体育実技指導資料 第5集『体育(保健体育)における集団行動指導の手引(改訂版)』(平成5年10月 文部省)」がそれです。小冊子かつ安価(本体価格291円)で、しかも内容は具体的・実用的です。全国のほとんどの小・中学校、高等学校に各校1冊は置いているのではないか、と私は思っています。それほど標準的な学校必携図書なのです。

 

 じつは、この冊子は書店で注文すればどなたでも購入できますから、集団行動を必要とする職業・団体に携われている方は必携されることをお勧めします。たとえば地域の子どもクラブや学童保育の指導者、野外活動のボランティアなどをされている方にとっては必読書ではないか、と私は考えています。

 

■ 大学での「集団行動」

 

 ところで、私たちが一般的な場面で「集団行動」と聞くとまず頭に思い浮かぶのは、体育科の授業の場面ではなくてYouTubeで見たあの「集団行動」の演技なのかもしれません。そう、日本体育大学の集団行動のあの演技です。2016年夏、スイス・バーゼルで開催された楽隊の祭典「バーゼル・タトゥー」に招待され披露したその見事な演技は、観客の喝采を浴びたことで知られています。しかしこれは、小・中学校、高等学校で教えている集団行動とは異なり、日本体育大学の清原伸彦教授(現・名誉教授)が研究・開発したものだそうです。現在でも日本体育大学で開催される「体育研究実演発表会」で披露されているそうで、その高難度な演技は、大学の必修科目として行っているのではなく希望者が数か月間の特訓によって習得しているものだそうです。

 

■ 集団行動の謎

 

 前述した『体育(保健体育)における集団行動指導の手引(改訂版)』の「まえがき」には、初版は昭和40(1965)年に出されたと書かれています。ということは当時、それまでにあった全国各地のさまざまな集団行動の指導法を体系的にまとめ標準化する必要があったのではないか、と考えられます。ただ残念ながら、初版の「手びき」が手に入らず調べることができませんでしたので、ここからはあくまでも私の推察です。

 

 1970年代の前半、第二次ベビーブームが訪れ、ピーク時には年間約210万人の子供が誕生するようになります。そのような時代の到来を予測してこの冊子は作成が計画されたのではないかと考えられます。このベビーブームに伴い学校の児童生徒数が急増します。在校生が千人を超える小・中学校がどの地域にも出現し、教室や学校が足りなくなって社会問題にもなりました。一度に生徒が集まって全校集会をすると運動場からあふれるほどになる様子がテレビニュースになるほどでしたから、学校では児童生徒を統率し指導をするために「集団行動」の重要性や必要性がより高まっていた、と私は考えています。

 

 近年、学校の統合や休校・廃校が全国各地で増えている状況からは想像もできないかもしれません。しかしそれが、60年前の日本の学校の現実の姿だったのです。

(浩)

スポンサードリンク