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学校の四季㉕「学校の研修」(下)

 

 ■ 小学校の教科担任制

 

 学校のICT化の整備費を含む令和元年度補正予算案が閣議決定された2019年12月13日に、新しい教育関係の提言が新聞に掲載された。中央教育審議会が22年度をめどに、小学校5、6年生に教科ごとに専門の教員が教える「教科担任制」を導入すべきだとする方針をまとめた、というのである。

 

 20年度から本格実施される小学校学習指導要領では、「道徳教育」「外国語(英語)教育」「プログラミング教育」という新しい教科などの学習が始まる。小学校での教育内容は現在、学級担任が多岐にわたる教科領域を原則ひとりで教えている。ところが近年、指導内容はますます専門化しており、従前のようにひとりの教員が全教科を教える学級担任制では、高度化する教育内容に効果的な指導が追い付いていない。今次の学習指導要領で、知識注入型の集団学習から「アクティブ・ラーニング」といわれる主体的・対話的な学びに転換を図るためにも、少なくとも小学校の高学年段階から教科ごとに専門の教員が指導することで教育効果をより高めようというのが、この提言のねらいである。

 

 また一方で、別の切実な事情もある。「働き方改革」が進められている日本社会のなかで、小中学校教員の勤務時間は典型的な長時間労働となっており改善が図られていない。19年6月に公表された経済協力開発機構(OECD)の調査報告によれば、日本の小中学校教員の勤務時間はOECD加盟国のなかで最も長い。その労働環境が敬遠されているのか小中学校教員は、かつてのような人気職種ではなくなった。20年度小学校教員採用試験での全国の平均倍率は2.8倍で過去最低だった。ちなみに過去最高だった2000年には12.5倍もあった。小中学校教員にも「働き方改革」を実現する具体的な手立てが必要なのである。

 

 今回の「教科担任制」導入の提言は、このような教育的課題や社会的背景から導き出されている。今後の小学校教育の在り方を考えるときに、中央教育審議会のこの提言は正鵠を射ていると、私は思う。

 

 いま学校は、ゲストティーチャーとして地域の方々を招いたり、反対に子供たちが地域にでかけて地域文化の継承活動をしたり、地域の「生涯学習施設」としてその役割を果たしている。しかし、これからの「超スマート社会」に向けて学校では、「ICT活用」「プログラミング学習」「英語学習」「環境保護活動」や「防災・減災実践活動」など地域学習の枠を超えた内容も学ぶ必要がある。そのような学習を進めるときに、教職大学院などで高度な専門知識や学際的知見を身につけた専門の教員が学校に必要になるのは当然のことだろう。

 

 ■ ICT(情報通信技術)活用授業の将来的意義

 

 知識基盤社会、超スマート社会を生きる人材育成をこれからの公教育が担っている。我が国の「教育の情報化」が後手に回ってきたことで近年、世界のITスタートアップ企業数で日本は、ICT先進諸国に後れを取っているという。現代の知識基盤社会やこれからの超スマート社会ではICTがその基盤にあり、子供たちが将来どの職業分野に進むにしてもICTの知識や技術はもはや必要不可欠である。たとえば、我が国が得意とする人工知能(AI)、先端医療科学や量子暗号分野ではもちろん、ものづくりの高度な技術分野の場で今、ICTはシステム開発やプラットホーム構築に応用されている。だからこそ小中学校段階から日常的に、ICTを活用した授業が行われることが重要なのである。

 

 東京商工リサーチの2009年の調査によると日本には、100年の歴史をもつ企業が約2万1千社あるという。驚くことに200年企業も約1千3百社あり、日本最古の企業は創業が西暦578年で、これは世界最古の企業でもあるという。「教育の情報化」の遅れで、世界でも稀な歴史と伝統をもつ日本のものづくり会社の技術を途絶えさせることになるのではないかと、私は危惧している。伝統と技術をもつ日本のものづくり会社が、その強みを生かしつつ先進的なITベンチャー企業と協業を行い、新技術を開発したり新業態を開拓したりしている成功事例もある。このようなビジネスモデルへの挑戦で、ものづくり企業の未来を描くこともできるのではないか。

 

 昨年10月にグーグルの幹部からパナソニックの幹部に転じた松岡陽子フェローはあるインタビューで、アメリカの大手IT企業は日本の潮流とは反対に、ソフトウエア会社からものづくりの会社へシフトしようとしていると指摘していた。

 

 ■ 未来への学校の挑戦

 

 ICT活用やプログラミング教育、外国語(英語)教育、環境教育や防災・減災教育のように次世代に必要不可欠となる教育内容や社会的課題に、これからの学校は積極果敢に挑戦することが大事だ。そのためには、学校の研修の進化や指導体制の改編をより一層加速させることが必要だろう。

 

 それは教育の仕組みの些細な部分的改善にみえるかもしれないが、技術立国、教育立国として我が国の未来をかけた挑戦への布石のひとつだと捉えたい。今、第5次産業革命といわれる急激な変革の時代が始まっている。望むと望まざるとにかかわらず私たちは、そして子供たちはそんな時代を生きているのである。

(浩)

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