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学校の四季②「初めての給食」

「校長先生。今月もまだなんですよ!」

給食主任が書類を片手にバタバタと校長室に駆け込んできた。

給食センターから先月までの給食費滞納状況報告書が届いたのである。今学期始めに、長期にわたって給食費の未納が続いている保護者あてに児童手当による納入の同意書を提出してくれるよう依頼した。ところが今月になってもまだ提出されていない保護者がいるというのだ。

 

 

給食主任の憤りは強かった。

「給食費は払わなくてもかまわないとでも思っているんでしょうか」

「食べたのに代金を支払わないなんて。無銭飲食は万引きと同じ。犯罪です」

と怒りは収まらない。

 

 

誰でもまさか、飲食店で食事をしてから代金はあと払いでなどとは言わないのに、給食費なら支払いが期日に遅れてもかまわないと考えるのはおかしな話だ。しかも1ヶ月ではない。何ヶ月も滞納しているのだから。

学校給食は、季節ごとに地元の食材を取り揃え、子どもの成長に必要な栄養バランスを考えて作られた優れた食事である。そして何よりも、家庭で作るよりはるかに安価である。

それにもかかわらず、毎月の給食費が全家庭揃って支払われることは、まずない。

 

 

私もこの滞納の問題には頭を悩ませていた。

給食費の滞納は、放置しておくと何年にもまたがることが多く、卒業後も引き継がれ進学する中学校に迷惑をかけることにもなる。また、滞納金額が大きくなればそれだけ調理に使う食材購入費が圧迫されたり、保護者の間の不公平感が昂じたりすることにもなる。

 

 

それでは、学校給食費の滞納を強制的に徴収することはできないのか。

もちろん最終的には簡易裁判になるが、それ以外の方法としては、児童手当からの天引きが考えられる。しかしこれは、法律上強制的に徴収することはできない。事前徴収するには保護者の同意が必要になる。給食主任が憤ったのは、この同意書を出さないことに対してだ。

 

 

私は、「ヤレヤレ」と疲労感を胸に感じながら、給食主任を連れて1年生の教室へ向かった。

この日は、1年生が入学して初めて学校給食を食べる日だった。

献立はカレーライス、フルーツポンチと牛乳。それにデザートにはチョコケーキも付いていた。学校給食には必ず牛乳が出る。ところが最近は、乳アレルギーの子どもが少なくない。

 

 

アレルギーの強い子どもは、牛乳を拭いたふきんを触っただけでも、アナフィラキシーショックを起こすことがある。そばアレルギー同様、命に関わる強いアレルギーなのである。今年の新入児にも1人、乳アレルギーの子がいた。この子は担任の横の特別席で給食を食べることになっている。もちろん牛乳抜きである。

当分の間、牛乳の栓は児童全員分教員が抜くように言っておいた。1年生は、栓を抜くときに瓶を倒したり牛乳が飛び散ったりすることが多いからだ。

6年生が給食配膳の手伝いをしてくれて、やっと給食を食べる準備が整った。当番の子どもが今日の献立を紹介し、手を合わせ「いただきます!」と一斉に食べ始めた。

 

 

しばらくして、窓際に座っていた男の子が、小さな掌で手招きをして私を呼んだ。

何があったのだろうと席まで行くと、男の子は私の耳元でこう囁いた。

 

「園長先生。おいしい」

 

私は思わず微笑んだ。

そして胸の中は、給食費未納の問題はすっかり忘れて、幸せな気持ちに満たされていた。

 

 

(浩)

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