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学校の四季⑲「新1年生入学説明会」(下)

■ 新1年生のこまった「癖(くせ)」

 

 新1年生にはこまった癖がある。そのことに私が気づいたのは、ちょうど1年生がひらがな練習を始めたころだった。教室で子どもたちが学習する様子を見ていると、ひらがなを書く子どもの動作がどうもおかしいのだ。しばらく観察していて気が付いた。鉛筆の持ち方が変なのである。

 

 はじめは1年生の入門期だからかと思っていたが、あとで担任に訊いてみると、「幼児期から鉛筆を持ってひらがなを書く練習をしている子が多いのです。ところが鉛筆の持ち方を正しく教わっていません。あるいは指の筋力が弱いので間違った持ち方になっているのかもしれません」と言う。それではと思い後日、上の学年の教室も観察してみたところ、驚いたことに正しく鉛筆を持っている子どものほうが少ないではないか。

 

 鉛筆は、親指と人差し指と中指の3本の指ではさんで持つ、これが正しい持ち方である。その持ち方ができていないのだ。観察すると5本の指で鉛筆を握りしめている子、中指と薬指の間に鉛筆をはさんで持っている子と、まあとんでもない持ち方をして字を書いている子もいる。

 

※「鉛筆の正しい持ち方」の図

 

 ■ 新1年生入学説明会の宿題

 

 そのことがあって次年度の新1年生入学説明会に私は、保護者へ配付する資料封筒の中に「鉛筆補助具」を入れて渡した。「鉛筆補助具」とは入門期に鉛筆の持ち方をサポートする道具で、鉛筆に装着して使う。これを使うと親指と人差し指と中指が自然に正しい位置でグリップできるのである。また、その「鉛筆補助具」には番号を打ったシールを貼っておいた。新学期に落とし物として拾われても誰のものかすぐにわかるようにしたのである。

 

 私は保護者を前にして話しかけた。

 「ここに鉛筆があります。この鉛筆が六角形になっているのは何故だかご存知ですか?机の上で転がらないようにするためでしょうか?それもあるのですが、じつは鉛筆を正しく持てるようにするために六角形にしているのです」と説明した。そして私は、鉛筆の正しい持ち方を実演して見せた。実演までしたのは、失礼ながら保護者の方々もおそらく半数程度の方は鉛筆を正しく持てないのではないかと、私は思っていたからである。

 

 そして次に私は保護者にこのようにお願いした。

 「これから入学するまでの間、自宅で子どもに鉛筆を持つ練習をさせるときには必ずこの補助具をつけて練習させてください。それが入学するまでの宿題です」

 

 ■ 筆記具の進化の功罪

 

 鉛筆の持ち方だけでなく、筆記具の持ち方が乱れたのにはそれ相応の理由があることを、私も知っている。筆記具の進化と機能の高度化である。現代の筆記具は、ボールペンではどの角度で書こうとも同じ太さで途切れることなく線が書けるし、シャープペンでは少々強い筆圧で書いても芯が折れにくい構造になっている。つまり、今の筆記具はペンの持ち方を問わず線や文字が書けるまで性能が進化しているのだ。そのことが、中学生、高校生の筆記具の持ち方が変化し乱れてきた理由のひとつである。それが今では親から子どもへと引き継がれているのかもしれない。

 

 そんな時代だからこそ小学生への指導が大事なのである。鉛筆の持ち方は小学校の入門期の重要な指導事項だ。それは鉛筆の持ち方にとどまらずお箸の持ち方につながっており、大きく言えば日本の文化継承にもつながっているからである。この子どもたちが将来、筆記具やお箸をどのような持ち方で使うかは本人の嗜好と判断に任せるが、文化や技能の基本を学ばないで応用することを「個性」とは呼ばない。だからこそ、教育の場では基本はきちんと教えて身につけさせなければならないと、私は思っている。

 

 さて、この話には残念ながら保護者との後日譚はない。この年度の子どもの鉛筆の持ち方がほかの年度の子どもと比べて格段によくなったかどうか。その後の様子を追跡調査したわけではないのでその効果は明らかとはいえない。しかし入学後しばらくの間、私が観察した範囲では多くの子どもたちは補助具を使い正しく鉛筆を持っていたのは事実である。

 

 今度、あなたが新学期の授業参観日に出席されるときには、ぜひとも子どもたちの鉛筆の持ち方にも注目していただきたい。きっとあなたも驚愕することになるだろう。私の予想では、おそらく7割の子どもは正しい持ち方をしていない。そして2割の子どもはとんでもない持ち方をしているのではないか。

 

 もちろん私は、この予想がよい方向に外れていることを願っているのだが。

(浩)

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