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学校の四季⑯「災害避難所としての学校」

■ 体育館が避難所になると

 

 平成30年7月豪雨によって西日本の各地は甚大な被害を受けた。テレビで各地の被害状況が放映されると私は、住民の方々が避難所でどのような避難生活を送っているのか気になる。テレビで映し出される避難所の多くは、学校の体育館であり公民館である。ところがハイテク先進国の日本なのに災害避難所の状況は、避難住民の雑魚寝状態が当たり前で現在もひと昔前とあまり変わっていないように思われる。

 

 私が、避難所の状況が気になって観察するのが習慣になったのは、かつて校長だったときの苦い経験があるからだ。

 その学校に赴任して数カ月が経ったある日のことだった。夜、仕事で校長室に残っていた私に市の防災担当者から電話があった。「大雨洪水警報が発令されたので体育館を避難所として開設します」という連絡だった。避難所は市の担当者が開設することになっている。担当者が来るまで体育館の解錠や換気をしておこうと、私は体育館に向かった。するとすでに体育館前には数人の地域住民が集まっており、私はあわてて照明をつけ扉を開いた。

 

 折りたたみ椅子を持参していた高齢の住民が私に、「横になりたいから毛布を出してほしい」と言った。毛布は防災倉庫に置いてあったが、その鍵がどれだったか私は記憶になくはたと困った。

 「なんだ。校長が防災倉庫の鍵もわからないのか!」とその住民は私を叱責した。そのとき市の担当者が学校に到着した。防災倉庫の鍵を開け毛布などを取り出し、手際よく避難所の開設業務を進めていった。すでに避難住民は数十人に増えていた。

 その夜、私は校長室の床に毛布を敷いて仮眠し一晩明かした。反省の思いが私の胸に強く湧き上がっていた。

 

■ 避難所の体育館に必要なもの

 

 この体験を契機にして私は、体育館での防災備品の管理のあり方を改善し備品の備蓄推進を図った。まず体育館の耐震改修工事に合わせて、プレハブの備蓄倉庫に置かれていた「災害用備蓄毛布」や「ブルーシート」などを体育館のギャラリーに置き換えた。フロアからギャラリーを見上げたときに、それが非常用備蓄品だとわかるようにわざとラベルが見えるように置く工夫もした。そうすれば日ごろから社会体育で体育館を利用する方々も「非常用備蓄品」が置かれていることに気づき、必要なときにすぐ備蓄品を提供できるようになると考えたのである。

 

 つぎにスペースの空いたプレハブには、解体予定の武道館から不要になった武道用の畳をいただきそれを備蓄した。武道館の担当者から「そんなに大量に何に使うのか」といぶかしがられたが、あの夜、床に毛布を敷いても眠れないことを私自身が実感したからこそ考えついたのだった。

 

 さて今なら、私は避難所の体育館に必要な備品として何を準備するだろうか。私見であるが、つぎの3点を紹介したい。関係者の参考になれば嬉しい。

 

(1)非常用トイレセット

 阪神・淡路大震災での避難所運営の記録を読むと、体育館を避難所として運営した教職員がとりわけ苦労したのは、悪臭に耐えながらのトイレ管理だったことがわかる。プールから繰り返しトイレ用の水を汲み上げたり学習園にいくつも穴を掘り糞尿を埋めたりする作業が延々と続き疲弊した体験談が述べられている。

 

 大阪市にある「クリロン化成」が開発した「非常用トイレセット」は、トイレの洋式便器に専用のビニール袋を設置して排泄したのち、凝固剤で糞尿を固まらせ独自技術で匂いが漏れるのを遮断する「防臭袋」に入れて処理する製品である。これは市販されていて、使用期限は10年間とのことだから家庭でも備蓄しておけば災害時にトイレ臭や糞尿処理によるストレスを軽減できるだろう。

 

(2)避難所用 紙の間仕切りシステム

 災害避難所でのプライバシーの確保は、避難期間が長引くにつれて大きな課題になってくる。着替えや荷物の整理をするときに他人の視線が気になりストレスを感じる避難住民は多い。

 東京都世田谷区にある「坂茂(ばんしげる)建築設計」が開発した間仕切りシステムは、紙製の支柱に布を吊り下げることで体育館に間仕切りをつくる製品である。これは自治体が事前にこの会社と協定を結ぶことで、災害時にはその自治体が必要とする数量の部材を提供する仕組みになっている。テレビでたまに体育館が布のカーテンでいくつものブロックに仕切られた避難所が映ることがあるが、それがこのシステムである。

 

(3)段ボールベッド

 避難所で高齢者などがエコノミークラス症候群になるのは「車中泊」や「雑魚寝」が原因だと指摘されている。段ボールベッドは就寝時のプライバシーの確保や高齢者の起き上がりを支援する。また箱の中に荷物を保管することもできる。

 大阪府八尾市にある「Jパックス」の段ボールベッドも、前述の間仕切りシステム同様に自治体と協定を結んでおき、災害時に自治体から要請があると直ちに工場のラインを変更しこの製品の製造を始める。そして72時間以内に要請数量を提供できるシステムがとられている。これにより避難施設は平時の備蓄スペースが不要になるし長期保存により製品が劣化して新たに買い替えるといった必要もなくなる。

 

 9月1日は防災の日。1923(大正12)年に関東大震災が起こった日である。ここで述べた「公助」とともに「自助」を充実させるために避難と備蓄を考える日にしたいと思う。

(浩)

 

※ 「学校の四季⑥⑩」にも防災コラムを書いていますので、併せて読んで参考にしていただければ幸いです。

 

学校の四季⑥「11月5日 津波防災の日」

⇒https://www.gaccom.jp/wp/article/school-shiki-6.html

 

学校の四季⑩「かまどベンチの炊き出し訓練」

⇒https://www.gaccom.jp/wp/article/school-shiki-10.html

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