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先人が語る教育の智恵と本質④「頭は心の道具」

「僕は自分の中の独創性が滅せられるという危惧から、10歳頃に小学校を『自主休学』し、物理学者だった母親の研究室を遊び場にさまざまな実験を繰り返した」

 

ある経済誌の「巻頭言」の冒頭に書かれていた1文である。どんな人物なのだろうと、私は思った。「巻頭言」のタイトルは『常識は独創性の母である』とあった。

 

この人物は今、日本に生きている。天才的な発明家としてまた起業家として。

彼は究極の緩まないネジ「L/Rネジ」を発明し、31歳でベンチャー企業を立ち上げた。2009年度に MIT(マサチューセッツ工科大学)-EF主催のビジネスプランコンテストで最優秀賞を含む3賞を受賞したのを始め、2011年度にはグッドデザイン賞金賞(経済産業大臣賞)を受賞するなど数々の賞を受賞している。

 

 

「L/Rネジ」はネジの革命だといわれている。

ネジの歴史は2000年以上あるが、その長い歴史で解決できない課題があった。それは「ネジは緩む」という性質だった。ネジはらせん構造になっているため、振動などの影響でどうしてもボルトとナットに緩みが生じる。それが原因となり破損や脱落による大事故が過去何度も起こっている。「緩まないネジ」を作ることは世界中の技術者が挑戦する永遠のテーマだった。しかし誰も実現することはできなかった。「緩まないネジ」を作ることは不可能だとさえ言われていたのである。

 

「L/Rネジ」はらせん構造をもたない特殊な3次元構造のネジで、絶対に緩まない。

この究極の「緩まないネジ」を発明したのが、ベンチャー企業NejiLaw代表取締役社長の道脇裕(ひろし)さんである。

 

小学校を自主休学した道脇さんには「学歴」がない。彼はその後年齢をごまかしていくつかの職業に就いたこともあるそうだが、彼の『自分探しの旅』は終わらなかった。「何をしたらいいのか」「自分はどう生きたいのか」わからない状況から抜け出すことができなかった。

 

18歳のころ彼は考えた。自分の「バカ」を克服するために、何をしたらよいのかノートに書き連ねてみよう、と。

「漢字」「文章力」「読書」「現代社会」「日本史」「世界史」「物理学」「技術史」「論理学」…

書き連ねた項目は30項目ほどになった。そのとき彼は、それをどこかで見たことがあると気づく。

「これは学校カリキュラムそっくりじゃないか」

「教育カリキュラムは人がやりたいことができるようにするための基礎づくりだったんだな」

この出来事をとおして彼は、学校で学ぶことの意味や社会保障としての教育システムの意義を理解したのである。

 

19歳のとき自動車事故に遭う。

運転していた自動車のタイヤ1本が脱落し、車より前に飛んで行った。事故後の車輪を見るとタイヤを車軸に接続しているボルトが1本折れ残りのボルトはナットが緩んで外れていた。この経験が、「緩まないネジ」を発明しようとする動機づけになった。

それから10年、文字どおり生活のすべてを懸けて彼は約200件の発明を成し遂げた。

 

道脇さんは言う。

「自分だけで生きているのではないから、いろんな人に支えられながら存在できる。(中略)たぶん自分の為だけだったら存在する価値がないですよね」

「(思考や発明は)もちろん頭でやる行為かもしれないですけど、頭を動かしている原動力ってどうか指図しているのは何か、心である。心が頭を使っている。頭というのは心の道具であるという僕の捉え方ですよね」

 

道脇裕さんの名前と業績は「L/Rネジ」とともに永遠に技術史に刻まれることになるだろう。しかし私にとっては、道脇さんの名前は次の2つの言葉とともに心に刻まれるように思うのだ。

 「頭は心の道具である」

 「常識は独創性の母である」

(浩)

 

※ 文頭の「巻頭言」は『Harvard Business Review』2016年4月号(ダイヤモンド社)による。また文中の言葉は、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』(2016年11月放送)で本人が語った言葉を引用している。

 

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