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学校の四季⑭「美術館との交流」

 

■ 美術館の企画展

 

 企画展が開催されるたびに訪れる地元の公立美術館がある。美術館の入り口に立つと目の前には総合運動公園が広がり、その眺望は地方都市の美術館とは思えないほど美しい。春の陽差しのなか、若い母親たちが連れてきた幼児の一団が遊んでいる。その歓声が遠くから響いてくる。桜は美しく花びらを散らし花壇にはパンジーや菜の花が色鮮やかに咲いている。

 

 10年程前のこと、この美術館で『現代のクレパス画』展という展覧会があった。展示されていた絵画はクレパスで描かれたとはとても思えない深い色彩で精緻なタッチに驚かされた。鑑賞していた私は「どのような技法で描いたのだろう」と興味が湧いてきた。順路を進むうちふと、展示されている解説パネル「クレパス画の技法」に目が留まった。どのようにしてクレパス画は描かれているのか、パネルはその制作過程を基本から応用まで解説していた。専門用語を並べるのではなく解説文と分解写真や図解が効果的に配置され私にはとてもわかりやすかった。

 

 少しして私の頭に、当時勤めていた小学校にこのパネルを展示させてもらえないかとアイデアが浮かんだ。子どもたちがクレパスの技法に触れるのによい機会になるのではないかと考えたのだ。しかしすぐに展覧会の厳格な契約条件などを想像して「そう簡単には借用できないだろうな」とも思った。

 

 企画展が終了する少し前、親しくしていた学芸員さんに電話をして厚かましくも「無償貸与」を相談したところ、彼は即座に「いくつかハードルはあるけれど検討してみましょう」と交渉を快諾してくれた。これには私の方が驚いた。丁重に断られるかと思っていたからである。それからしばらくして、この解説パネルは厳重に梱包されて学校に届いた。

 

 

■ 校長室前の展示コーナー

 

 校長室前に廊下の空きスペースを活用して「作品展示コーナー」を作っていた。学校に足しげく通ってくれた校区の公民館主事さんと雑談をしていたときに公民館教室の作品を学校に展示しようという話になり作った展示コーナーだった。展示作品はその公民館主事さんがサークル代表の方にお願いして月替わりに、絵手紙や切り絵、押し花アートや折り紙などさまざまな作品を持参してくれた。また校区の中学校校長にもお願いをして、学期に1回程度デッサン、ポスター、デザインや写生画など中学校美術部員の作品も展示していた。これらの展示作品で児童に人気があったのは公民館作品では折り紙、中学校美術部の作品では種類は問わず本校卒業生の作品であった。つまり近所で顔見知りのお兄さんやお姉さんの作品だった。

 

 届いた「解説パネル」を展示するにあたり私は、破損することのないようにどう管理をするかに腐心した。結論としては校長室のドアを常時開放しておき、私の席から見える位置にパネルを設置するようにした。パネル全部を見通すことはできないにしても、パネルを見る児童の声や気配はわかるようにしたかったのだ。

 

 高学年の学級は、担任が児童を連れてパネル鑑賞に来ていた。担任が解説をしてそのあと児童がいくつか質問をしていた。その会話が私の耳には心地よかった。また昼休憩には友達を連れた女子児童が、パネルの前でその友達にクレパス描画技法の「魔法」について熱弁を奮っていたこともあった。またあるときはドッチボールを小脇に抱えた少年がパネルをじっと読んでいるのを見つけた。私にはその後ろ姿がかけがえのないものにさえ思えた。

 

 この事例はたまたま実現した成功事例なのかもしれないが、私は、美術館は小学生にとって貴重な「学習フィールド」になり得ると今でも思っている。ただ活用法がまだ十分開拓されていないこともあり、今後も学校と美術館双方の工夫が必要だろう。

 総合運動公園に遠足に来た小学生が、学校の取り組みとして見学先にこの美術館を訪れるようになったのは、それから数年後のことである。

(浩)

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